60代からの家の見直し。階段・寒さ・家事の負担を減らすリフォームの考え方
「最近、2階への階段の上り下りがおっくうになってきた」「冬の脱衣所が寒くてつらい」「使っていない部屋の掃除が負担」。60代を迎え、子どもが独立したり、仕事を退職したりすると、暮らし方が変わり、家の使いにくさに気づくことが増えてきます。
これからも今の家で長く暮らしたい。そう考えたときに大切なのは、「将来に備えて全部直す」ことではなく、今の暮らしで困っていることと、これから困りそうなことを整理し、必要な範囲から手を入れることです。
この記事では、1日の生活の流れから困りごとを見つける方法、階段・寒さ・家事の負担を減らすリフォームの選択肢、工事の順番の決め方、介護保険の住宅改修の注意点を解説します。
結論:1日の生活の流れから、困る場面を書き出しましょう
60代からの家の見直しは、次の3ステップで考えるのがおすすめです。
・起床から就寝までの動きを書き出し、困る場面を見つける
・寝室を1階へ移す、段差を減らすなど、解決の方法を比べる
・「今必要な工事」と「将来に備える工事」の順番を決める
家族それぞれの希望や体の状態によって、必要な工事は変わります。ご本人だけでなく、ご家族も一緒に考えることが大切です。
ステップ1:1日の生活の流れを書き出す
まずは、普段の1日の動きを順番に書き出してみましょう。次のような記入例を参考に、「どこで」「何に困っているか」をメモします。
| 時間帯 | 場所 | 動き | 困っていること(例) |
|---|---|---|---|
| 朝 | 寝室(2階)→階段→洗面所 | 起きて顔を洗う | 寒い朝の階段がつらい |
| 午前 | 台所・洗濯機置き場・物干し | 朝食の片付け、洗濯 | 洗濯物を2階のベランダまで運ぶのが大変 |
| 日中 | 居間・各部屋 | 掃除、くつろぐ | 使っていない部屋の掃除が負担 |
| 夜 | 脱衣所・浴室 | 入浴 | 脱衣所が寒い、浴槽をまたぐのが大変 |
| 夜間 | 寝室→トイレ | トイレに行く | 夜中に暗い廊下を歩くのが不安 |
書き出してみると、「階段」「温度差」「移動の距離」など、困りごとの共通点が見えてきます。

ステップ2:困りごと別にリフォームの選択肢を比べる
階段の負担を減らす
2階の寝室への上り下りが負担になっている場合は、次のような方法があります。
| 方法 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 寝室を1階へ移す | 1階の和室や使っていない部屋を寝室にする | 1階に使える部屋がある |
| 階段に手すりをつける | 上り下りを支える手すりを設置する | 今は2階を使い続けたい |
| 1階だけで暮らせる間取りに変える | 寝室・水回り・収納を1階にまとめる | 将来的に2階をほとんど使わない予定 |
寝室を1階へ移すと、トイレや洗面所が近くなり、夜間の移動も楽になります。収納や洗濯の動線もあわせて見直すと、暮らしやすさが変わります。現在2階にトイレがない場合でも、納戸や押入、廊下の一部など新たにトイレを設置できる場所があり、給排水配管ができるようであれば、2階にトイレを新設することはできます。
段差・転倒の不安を減らす
家の中の小さな段差は、つまずきの原因になります。敷居の段差をなくす、浴室や玄関に手すりをつける、滑りにくい床材に替えるといった工事が考えられます。当社のコラム「バリアフリーを考えたリノベーション術」でも、段差解消や手すりの考え方を紹介しています。
寒さ・温度差をやわらげる
暖かい居間と寒い脱衣所・浴室・トイレの温度差は、体への負担になります。消費者庁によると、令和4年に溺死した65歳以上の方は7,900人で、そのうち5,824人が家や居住施設の浴槽で亡くなっています。消費者庁は、入浴前に脱衣所や浴室を暖めること、湯温は41度以下で10分までを目安にすることを呼びかけています。
脱衣所・浴室の断熱や内窓の設置、暖房設備の追加などで、温度差を小さくすることができます。詳しくは「浴室・脱衣室の寒さを解消する!断熱リフォーム術」もご覧ください。
家事の負担を減らす
洗濯・物干し・収納を近くにまとめる、使っていない部屋を収納にする、掃除しやすい床材や設備に替えるなど、家事の動線を短くする工夫があります。当社の住まい方アドバイザーは、「動線を整える」「収納を整える」「視線を整える」という3つの視点から、暮らしやすい住まいをご提案しています。
場所別:60代からのリフォームのポイント
困りごとが整理できたら、場所ごとに具体的な工事を考えていきます。
玄関:段差と靴の脱ぎ履き
玄関は、上がり框(かまち)の段差が大きい家も多く、年齢とともに上り下りが負担になりやすい場所です。手すりの設置、式台(踏み台)による段差の分割、腰かけて靴を履けるベンチの設置などが考えられます。冬場は玄関も冷えやすいため、玄関ドアの断熱性もあわせて見直すと快適さが変わります。
トイレ:寝室からの距離と寒さ
夜間にトイレへ行く回数が増えると、寝室からの距離や廊下の暗さ、トイレの寒さが気になってきます。寝室の近くにトイレを配置する、足元を照らす照明をつける、手すりを設置する、暖房便座や小型の暖房を使えるようにするなどの工夫があります。
浴室・脱衣所:温度差とまたぎやすさ
浴室では、浴槽をまたぐ高さや、床の滑りやすさ、脱衣所との温度差に注意が必要です。浴槽の高さを抑えたユニットバスへの交換、手すりの設置、浴室・脱衣所の断熱や暖房の追加などが考えられます。
キッチン:立ち作業と収納の高さ
キッチンでは、よく使う物を腰から目の高さの間に収納すると、かがんだり背伸びしたりする動作を減らせます。調理台の高さや、コンロの安全機能なども見直すポイントです。
寝室:1階への移動と夜間の動線
寝室を1階へ移す場合は、トイレや洗面所までの動線、収納の量、日当たりや寒さも確認しておきましょう。将来、介助が必要になったときのことを考えて、ベッドの周りにゆとりを持たせておく方法もあります。

ステップ3:「今必要な工事」と「将来に備える工事」を分ける
すべてを一度に工事すると、費用も工事期間も大きくなります。次のように分けて考えると、無理のない計画が立てやすくなります。
| 分類 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 今必要な工事 | 今の暮らしで困っていること、危険を感じていること | 階段・浴室の手すり、脱衣所の寒さ対策 |
| 一緒にやると効率的な工事 | 他の工事とまとめると手間を減らせること | 寝室の移動に合わせた床の段差解消や断熱 |
| 将来に備える工事 | 今は困っていないが、将来必要になりそうなこと | 廊下の幅の確保、車いすを想定した間取り |
将来の工事は、今すぐ行わなくても、「いずれ手すりをつけられるよう壁に下地を入れておく」など、準備だけしておく方法もあります。
介護保険の住宅改修を使う場合の注意点
要介護・要支援の認定を受けている方は、介護保険の住宅改修を利用できる場合があります。松本市の案内では、対象となる工事は次の5種類です。
・手すりの取付け
・段差の解消
・すべりの防止・移動の円滑化のための床材の変更
・引き戸等への扉の取替え
・洋式便器等への便器の取替え
支給の上限は20万円で、そのうち自己負担は1割(所得に応じて2割または3割)です。上限の範囲内であれば、複数回に分けて利用することもできます。
例えば、自己負担が1割の方が20万円の対象工事を行う場合、介護保険から支給されるのは18万円で、自己負担は2万円になります。上限の20万円を超える部分は、全額が自己負担です。支払いの方法には、いったん全額を支払ってから払い戻しを受ける「償還払い」と、自己負担分のみを施工会社に支払う「受領委任払い」があります。
注意したいのは、工事の前に事前承認の申請が必要なことです。また、破損や老朽化を理由とする改修、新築・増築にともなう工事は対象外とされています。利用を考えている場合は、ケアマネジャーや市の窓口に相談したうえで、施工会社と工事の内容を決めましょう。
介護保険の住宅改修のおおまかな流れ
利用する場合は、おおむね次の順番で進みます。具体的な書類や手続きは、松本市の案内や手引きで確認してください。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 相談 | ケアマネジャーなどに、困っていることと改修の希望を相談する |
| 2. 工事内容の検討 | 施工会社と、改修する場所や方法、見積もりを決める |
| 3. 事前の申請 | 工事の前に、市へ事前承認の申請を行う |
| 4. 工事 | 承認を受けてから工事を行う |
| 5. 完了後の手続き | 工事完了後に、必要な書類をそろえて手続きを行う |
介護保険以外に使える可能性がある補助制度
60代からのリフォームでは、介護保険の住宅改修のほかに、省エネや耐震の補助制度が使える場合もあります。例えば、寒さ対策として内窓を設置する、脱衣所の断熱をするといった工事は、省エネ改修の補助制度の対象になることがあります(2026年10月時点)。
| 工事の例 | 関係する可能性がある制度 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 手すり・段差解消・引き戸への交換 | 介護保険の住宅改修 | 要介護・要支援の認定、工事前の事前申請 |
| 内窓の設置・窓の交換 | 国の先進的窓リノベ2026事業、松本市 住まいのゼロカーボン推進補助金など | 対象製品・申請者・受付状況 |
| 古い家の耐震補強 | 松本市の木造住宅耐震改修補助など | 市の耐震診断の結果、交付決定前に契約・着工しないこと |
制度ごとに対象となる工事や申請する人、申請の時期が異なり、同じ工事に複数の制度を重ねて使えない場合もあります。どの制度が使えそうかは、工事内容が決まる前に施工会社と確認しておきましょう。
リフォームの予算を考えるときのポイント
「今」と「これから」の生活費とのバランス
60代からのリフォームでは、これからの生活費や医療費なども考えながら予算を決めることが大切です。一度に大きな工事をするより、必要な工事から段階的に進めるほうが、家計の負担を分散しやすい場合もあります。
優先順位をつけて見積もりをとる
見積もりを依頼するときは、「必ずやりたい工事」と「予算に余裕があればやりたい工事」を分けて伝えると、予算に合わせた調整がしやすくなります。補助制度の対象になる工事とならない工事を分けて見積もってもらうと、実際の負担額も把握しやすくなります。
家族で話し合うときのポイント
本人の「これからどう暮らしたいか」を中心に
リフォームの話し合いでは、まず実際に暮らすご本人が「これからどんな暮らしをしたいか」を確認しましょう。趣味の時間を大切にしたい、孫が遊びに来やすい家にしたい、庭仕事を続けたいなど、希望によって必要な間取りや設備は変わります。
離れて暮らす家族の意見も聞く
離れて暮らす子ども世帯にとっても、実家の安全は気になるものです。帰省の機会などに一緒に家の中を見て回り、気になる場所を共有しておくと、話し合いが進みやすくなります。
費用の分担を決めておく
家族が費用の一部を負担する場合は、誰がどのくらい負担するかを事前に話し合っておくと、後のトラブルを防げます。
暑さ対策もあわせて考える
60代からの住まいでは、冬の寒さだけでなく、夏の暑さへの備えも大切です。室内でも熱中症になることがあるため、窓から入る日差しを遮る工夫や、風通しのよい間取りもあわせて考えましょう。当社のコラム「家の中でも熱中症に!? 高齢の家族を守るための住まい対策」でも、住まいの暑さ対策を紹介しています。
よくある失敗と注意点
失敗1:将来を心配して工事を詰め込みすぎた
「将来のために」と工事を増やしすぎると、費用が膨らむだけでなく、今の暮らしには合わない家になることもあります。今の困りごとから優先しましょう。
失敗2:本人の希望を聞かずに決めてしまった
家族が良かれと思って決めた工事が、本人の暮らし方に合わないこともあります。実際に暮らす方の希望を中心に考えましょう。
失敗3:介護保険の手続きの前に工事を始めた
事前承認を受けずに工事を始めると、介護保険の住宅改修として支給を受けられないことがあります。手続きの順番を確認してから工事を進めましょう。
失敗4:寒さ対策を後回しにしてしまった
段差や手すりの工事を優先した結果、脱衣所や廊下の寒さがそのまま残ってしまうことがあります。松本のように冬の寒さが厳しい地域では、家の中の温度差を小さくすることも、安全に暮らすための大切なポイントです。手すりや段差の工事とあわせて、寒い場所の対策も検討しましょう。
よくある質問
Q. 60代でリフォームするのは早すぎますか?
- 体が元気なうちに計画すると、ご自身の希望をじっくり反映しやすいというよさがあります。困りごとが小さいうちは、必要な範囲から少しずつ進める方法もあります。
Q. 2階はどうすればいいですか?
- 収納や家族が帰省したときの部屋として使う方法があります。使い方が決まっていない場合は、無理に工事せず、将来考える部分として残しておくこともできます。
Q. 住みながら工事できますか?
- 工事の範囲によって異なります。手すりの設置など小さな工事は住みながらできることが多い一方、間取りを大きく変える場合は仮住まいが必要になることもあります。
Q. 介護保険の住宅改修は、誰でも使えますか?
- 要介護・要支援の認定を受けている方が対象です。また、対象となる工事や手続きに決まりがあるため、ケアマネジャーやお住まいの地域包括支援センター、市の窓口に事前に相談してください。
Q. 収納が多すぎて片付けが大変です。リフォームで変わりますか?
- 使う場所の近くに、使う物だけを収める収納を計画すると、片付けの負担を減らせることがあります。「老後に備える家づくりと収納術」もあわせてご覧ください。
Q. 手すりはどこにつければいいですか?
- 立ち上がる、またぐ、段差を上り下りするなど、体を支えたい動作がある場所が目安になります。階段、玄関、トイレ、浴室などが代表的です。実際に動いてもらいながら、手の届きやすい高さや位置を一緒に確認して決めていきます。
Q. 夫婦で希望が違う場合はどうすればいいですか?
- それぞれの希望を書き出して、共通しているところから優先するのがおすすめです。住まい方アドバイザーが、お二人の暮らし方を伺いながら、両方の希望をできるだけ生かせる方法を一緒に考えます。
Q. 今は元気ですが、将来に備えて何か準備しておくことはありますか?
- 今すぐ工事をしなくても、将来手すりをつけたい場所の壁に下地を入れておく、寝室にできる部屋を1階に確保しておくなど、準備しておけることがあります。ほかのリフォームをするときに、あわせて相談してみてください。
まとめ:ご家族の希望を整理して、住まい方アドバイザーにご相談ください
60代からの家の見直しは、1日の生活の流れから困りごとを見つけ、必要な範囲から手を入れることが大切です。ご本人とご家族の希望をまとめておくと、相談がスムーズです。
フルハタ建設では、図面を描く前に「暮らしの設計」から始めることを大切にしています。二級建築士でもある住まい方アドバイザーが、毎日の暮らし方を伺いながら、これからも長く住み続けられる住まいをご提案します。
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